国民の三大義務の一つである納税は、会社員や個人事業主、経営者など、立場に関わらず我々の生活と切っても切り離せないものです。
だからこそ、「苦労して稼いだお金を1円でも多く手元に残しておきたい」、そういった思いもあるでしょう。
現に、ここ数年はiDeCoやふるさと納税などが節税の手段として人気を得ていますが、不動産投資も節税の手段として活用されてきました。
この記事では、実際に不動産投資を活用した節税は可能なのか、また誰でも実践できるものなのか、詳しく解説していきます。
不動産投資は節税できるの?
結論からお伝えすると、不動産投資で節税はできるとされています。
不動産投資をおこなう上で支払う税金の項目は複数ありますが、中には工夫次第で納税額を減らせるものもあるのです。
ただし、注意点もあります。税制の仕組みをしっかり理解した上でおこなわないと、ただの徒労に終わったり、逆に納税額が増えたり、最悪「節税」ではなく「脱税」と判断されたりするケースもあるからです。
そのため、次項では不動産投資において発生する税金の中から、何が節税の対象で、どのような仕組みで節税が可能なのかを具体的にお伝えしていきます。
不動産投資の際にかかる税金について
不動産投資において支払う税金の項目は複数ありますが、節税の対象となるのは主に所得税、住民税、相続税の3つです。
所得税…
所得に対して課せられる税金。不動産投資の場合、賃貸業で得られる家賃収入は「不動産所得」というカテゴリーに含まれるため、所得税の課税対象となります。
住民税…
都道府県民税と市区町村民税を合わせた税金。住民税の金額は、所得額に応じて変わります。
相続税…
親などの親族が死亡した際、資産を受け継ぐ人に課税される税金。不動産も資産の一つであるため、相続する際に被相続人は納税する必要があります。
他にも、固定資産税、不動産取得税、登録免許税、印紙税、都市計画税、消費税などの支払いが発生しますが、これらは仕組み上あまり節税には向いていません。。
節税の仕組みについて解説
続いて、前項で紹介した3つの税金支払いをどのような方法で圧縮することができるのか、節税の仕組みについて解説します。
まず会社員の場合、そもそも所得税や住民税は「所得の額」に応じて天引きのシステムで支払われています。給与所得から所得税や住民税が引かれた金額が、手取りとして銀行口座に振り込まれているのです。
自分で給与所得の額をコントロールできないため、節税は困難となります。しかし、それは所得が「会社からもらう給与所得のみ」の場合です。
本業以外に、不動産投資として自身の事業を有している場合、所得額は給与所得と不動産所得との合算によって算出されます。これを「損益通算(そんえきつうさん)」と呼びます。
そのため、仮に不動産事業が赤字の場合、損益通算によって所得の合計金額が減るため、課税額も圧縮され、節税につながるわけです。
確定申告によって所得額の修正をすることで、払い過ぎた税金を還付してもらうことができます。
個人で不動産投資の節税はできる?
不動産投資が節税の手段として有効であるとお伝えしたところで、こちらでは個人に焦点を当てて、節税の方法についてより詳しく解説していきます。
所得税・住民税が節税できる
個人が不動産投資で節税をする場合、節税の対象となるのは主に「所得税」と「住民税」です。具体的には2つの方法で節税ができます。
①損益通算による所得の圧縮
それに伴い、損益通算によって課税所得の額を減らすことができるのです。では具体的に経費として計上できるものには何があるのか、確認しておきましょう。
・減価償却費
建物は使用し続けることで劣化するため、年々価値が減少していきます。「減価償却」とは、そのような価値の劣化に応じて、建物の購入費用を複数年に分割して経費計上できる仕組みのことです。
通常の経費と違い、実際にお金が手元から離れるわけではありません。あくまでも会計上、経費として精算できるのです。
計算方法はシンプルで、建物の価格を耐用年数で割った金額となります。例えば、5000万円で購入した建物の耐用年数が20年である場合、
5000万円(建物の価格)÷20年(耐用年数)=250万円(減価償却費)
となるため、20年間、毎年250万円を経費として計上できるのです。
また、耐用年数は建物の構造によって違います。例えば住宅用の建物の場合、木造は22年、鉄筋コンクリート造は47年です。より詳しい情報は国税庁のホームページを確認してみてください。(※1)
※1:「減価償却資産の耐用年数表」(東京都主税局)https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shisan/info/hyo01_02.pdf
ちなみに、本格的なリノベーションや大規模な修繕をした場合は、耐用年数が変わることもありますので注意してください。
・修繕費や設備費用
建物を長期間快適に使い続けるには、設備の定期的なメンテナンスや建物の修繕が欠かせません。その際、大規模なリノベーションにかかる費用は減価償却費として計上されるのです。
また、通常の経費として計上されるか、減価償却として計上されるかは、工事にかかった費用が「資本的支出」と「修繕費」のどちらに該当するかによって決まります。
資本的支出
建物の価値の向上、耐久性のアップを目的とする工事における費用です。工事費用が20万円以上であり、原状回復や現状維持のための修繕ではない場合、資本的支出に該当します。なお、こちらは減価償却として計上されます。
修繕費
建物の現状維持や原状回復を目的とする、比較的小規模な工事の費用です。工事費用は20万円以下であることが原則で、災害によって被った損傷を修繕する費用も修繕費に含まれます。なお、こちらは通常の経費として計上されます。
ただし、これらの判別基準はあくまでも目安のため、実際に工事をする時は事前に税理士に確認をとることをオススメします。
管理費
賃貸経営では定期的な清掃や家賃の集金、入退去者への事務対応など、多くの管理業務が発生します。
一般的にはこれらの業務を自身ではおこなわず、管理会社に業務を委託するケースが多いです。その際、管理会社に支払う委託料を経費として計上できます。
ローンの利息
ローンで不動産を購入している場合、支払いの利息を経費として計上可能です。ただし、元金返済分は経費計上できません。
各種税金
固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税、印紙税、これらの税金は経費として計上することができます。逆に、所得税や住民税は経費にはできないので注意してください。
保険料
火災保険料や地震保険料などの損害保険料も経費になります。
司法書士や税理士への報酬
司法書士への登記の依頼や税理士への業務委託に伴う報酬は、経費となります。
その他
不動産投資の目的に沿った情報収集、資格の取得、現地視察など、それらに伴って発生する費用も経費として計上できます。ただし、これらは不動産投資の目的に沿っているか否かの明確な基準がないため、税理士に相談の上で判断することをオススメします。
②青色申告による所得の控除
青色申告をすれば、不動産投資が事業的規模であると認められる場合に限り、最大65万円分の所得控除を受けることができるのです。
所得控除を受ければ不動産所得を圧縮することができるため、所得税・住民税の節税につながります。
相続税が節税できる
相続税とは、亡くなった人から財産を受け継いだ時に課される税金のことです。相続する財産の総額が増えるほど税率が上がり、最高税率は55%もあります。
そして、相続税の額を下げるためには「相続税評価額」というものを下げる必要があります。
相続税評価額とは、現金、自動車、絵画や骨とう品、不動産などを含むすべての資産を金銭で評価し、算出された金額のことです。
不動産投資によって相続税評価額を圧縮できる理由は、主に2つです。
・理由1「現金資産を不動産(土地)に換えることで、評価額を圧縮できる」
相続する財産に現金が多い場合、不動産に換えることで相続税評価額を圧縮することが可能です。
現金のまま相続してしまうと、現金の総額がそのまま評価額としてカウントされますが、
土地の場合は路線価が評価額の基準となるため、購入した価格の80%程度まで評価を圧縮できます。
例えば5000万円の現金のみを相続する場合、本来であれば5000万円が相続税の課税対象となります。しかし、その5000万円で土地を購入すれば、評価額は4000万円前後まで圧縮できるというわけです。
・理由2「貸家建付地なら、評価額をさらに圧縮できる」
現金資産を土地に換えるだけでも節税効果は期待できますが、「貸家建付地(かしやたてつけち)」であればさらに評価額を圧縮できる可能性があります。
貸家建付地とは、建物を第三者に貸し付けている土地のことをいいます。
第三者に建物を貸しているのであれば、所有者はその不動産を100%自由に利用できない状態にあるため、資産としての評価が低くなる、という理屈です。
貸家建付地の相続税評価額は、以下の計算式で算出されます。
貸家建付地の評価額=更地の評価額-更地の評価額×借地権割合×借家割合×賃貸割合(※2)
※2:「No.4614 貸家建付地の評価」(国税庁)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
法人で不動産投資の節税はできる?
法人で不動産投資をする際に節税は可能です。ただそれ以前に、一定の条件を満たしていれば、個人から法人へ切り替えること自体に節税の効果があります。
まず、個人も法人も、不動産投資によって出た利益には税金がかかります。個人の場合は「所得税」、法人の場合が「法人税」です。
個人の所得税は「超過累進税率」という仕組みが採用されていて、所得が増えるほど税率は上がっていきます。
少ない所得であれば税率は10%〜20%程度ですが、所得が1800万円を超えてくると税率は「40%」まで跳ね上がります。実際はそこに住民税も加わるため、税率はさらに高くなるのです。
一方、法人税の税率の仕組みはシンプルで、年間の所得が800万円以下かそれ以上かで税率が変わります。年間の所得が800万円を超える場合は「23.2%」、800万円以下だと「19%」です(資本金が1億円以下の法人の場合)(※3)。
※3:「No.5759 法人税の税率」(国税庁)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
このように、個人か法人かによって税率が大きく変わるため、不動産所得がある程度増えてきたタイミングで、法人に切り替えるのが一般的な方法です。
他にも、法人化したほうが税制面で有利な点があるのでいくか紹介します。
減価償却により、法人税の節税ができる
個人と同様に、法人においても建物の減価償却は節税効果があります。
法人税は会計上の利益に税務調整を行ったものに対して課税されるため、利益が圧縮されればされるほど、課税所得金額を最小限に抑えられるのです。
そのため、建物の減価償却費を経費として計上すれば、手元から現金を手放すことなく経費を作り出し、法人税の負担を抑えることができます。
不動産所得を給与所得にできる
法人であれば、不動産から得た収益を給与として個人で受け取れます。
給与は、法人にとって経費扱いとなるため、法人としての不動産所得の圧縮につながり、結果的に納税負担が減らせるのです。
また、自身に給与を支払うだけでなく、家族を従業員にして給与を支払えば、法人の経費をさらに増やすことができ、利益圧縮、法人税の節税につながります。
相続税の対策になる
法人化は、不動産を相続する際の相続税対策としても効果を発揮します。
通常、個人の不動産をそのまま個人へ相続するには高額な相続税が発生します。しかし、法人化によって法人が不動産投資をしている場合、不動産は個人の所有物ではなく法人の所有物なので、相続の対象とはならないのです。
つまり、法人の株式を相続者に渡すことで、「個人の財産」ではなく「法人の財産」として引き継げば、相続税を支払うことなく、事実上不動産を相続できます。
不動産投資で節税をする際の注意点
ここまでの内容で、不動産投資が節税の手段として有効であることは理解してもらえたと思います。
しかし、一方で不動産投資による節税は人によって向き不向きがあり、必ずしも節税の選択肢が不動産投資である必要はありません。
以下、不動産投資で節税をする際の注意点についてまとめたのでご覧ください。
不動産投資で節税をするべき人と不向きな人
不動産投資による節税は、誰しも向いているというわけではありません。少なくとも所得によって、得をする人と損をする人がいます。
こちらでは、不動産投資で節税をするのが向いている人の条件を2つ紹介します。
・所得が多い人
先述のように、個人の所得税は超過累進課税が取り入れられており、所得に対して最小で5%、最大で45%の税率がかけられます。以下は、所得金額ごとの税率の一覧表です。
所得金額 | 税率 | 控除額 |
194万9000円以下 | 5% | 0円 |
195万円以上329万9000円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円以上694万9000円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円以上899万9000円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円以上1799万9000円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800万円以上3999万9000円以下 | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
このように、所得が年間900万円を超えている人は、所得税の税率が33%もあります。
住民税と合わせると税率が43%となり納税額が大きくなるため、不動産投資による節税効果を実感しやすいでしょう。
一方で所得が900万円に満たない人は、そもそも所得税の税率が高くありません。その状態で不動産投資をするのであれば、節税目的で取り組むよりも、収益性の高い事業を目的として始めるほうが現実的です。
・相続税対策を必要としている人
多額の現金資産を保有しており、相続の予定がある人は、不動産投資による節税が向いていると言えます。
前述でお伝えしたように、現金をそのまま相続しようとすれば、現金そのものが課税評価の対象となります。しかし、現金を不動産に換えておけば、相続税評価額を下げることができ、結果的に相続税の節税につながるのです。
節税のみを目的とした不動産投資は4つのリスクがある
不動産投資を活用した節税は、たしかに賢い方法の1つかもしれません。しかし、事業である以上、不動産投資にはリスクもあります。とくに節税のみを目的とした場合、以下のようなリスクが考えられるでしょう。
リスク1「キャッシュフローが悪化する」
ローン返済を抱えた状態で貸家が空室になったり、家賃を下げざるをえなくなったりすれば、キャッシュフローは急速に悪化するでしょう。
リスク2「信用力が下がる」
今後もローンを活用して不動産を複数所有するつもりであれば、赤字経営はあまりオススメできません。金融機関からの印象が悪くなってしまうためです。次回以降、ローンの審査が通りにくくなってしまう可能性があります。
リスク3「減価償却ができなくなる」
不動産投資による節税は、手元からお金を手放さなくても経費計上ができてしまう「減価償却」が大きな強みです。
しかし、減価償却をできる回数は、その建物の耐用年数分しかありません。耐用年数に達すれば、減価償却はできなくなり、節税効果が大幅に下がる可能性があるでしょう。
リスク4「売却するには譲渡所得税がかかる」
節税目的で不動産投資をするのであれば、減価償却が終わる前に売却してしまうのも手です。
しかし、不動産の売却時に利益が出た場合は「譲渡所得税」という税金がかかります。また譲渡所得税は、物件の所有期間の長さによって税率が変わるため注意が必要です。以下が、所有期間ごとの税率となります。
所有期間 | 税率 |
5年超 | 20.315% |
5年以下 | 39.63% |
このように、所有期間が5年以下か、5年を超えているかで税負担が倍ほど変わるのです。
ちなみに、所有期間が5年超えの場合の所得を「長期譲渡所得」、5年以下の所得を「短期譲渡所得」といいます。各々、税率の計算方法は以下となります。
長期譲渡所得の税率=
所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%
短期譲渡所得の税率=
所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%=39.63%
いずれにしても、不動産投資による節税をするのであれば、売却時にかかる譲渡所得税も考慮しておく必要があるでしょう。
まとめ
不動産投資は、たしかに節税の方法として有効です。所得税や住民税、相続税、法人税など、多くの節税効果を期待できるでしょう。
とくに、現金を手放すことなく毎年一定の額を経費計上できてしまう「減価償却」は、節税のテクニックとして魅力的に感じられるかもしれません。
しかし、何度もお伝えしているように、不動産投資はあくまでも「事業」です。iDeCoやふるさと納税のように、誰もが簡単に始められるわけではありませんし、安易に手を出せばむしろ損をしてしまうリスクもあります。
もしも不動産投資による節税を試みるのであれば、購入した不動産を最終的に売却するのか、誰かに相続するのか、そういった出口戦略を含め、綿密な事業計画を立てた上でおこなうことをオススメします。