超高齢化社会の現代において、遺産の生前整理は避けて通れない問題です。
特に不動産は、遺産の中でも金額の規模が大きいため、適切に対応をしないと残された家族や相続人に迷惑をかける可能性があります。そこで、こちらの記事では不動産を生前整理する際の4つの方法、注意点、生前整理をするメリットやデメリットを解説します。
不動産の生前整理がなぜ重要なのか?
超高齢化が進行する現代では「終活」が注目を浴びつつあります。
終活とは、人生の終わりを迎えるにあたり、人間関係や資産などを生きている間に整理することを言います。その中でも特に難易度が高いものが「不動産」です。不動産は価格が変動しやすく、分割することが難しい資産であるため、生前整理をするハードルは非常に高いです。
しかし、だからと言って不動産の生前整理を怠った場合、さまざまなデメリットがあります。たとえば、放置された空き家に不法侵入があったり、庭木を放置して隣地に迷惑がかかったりなどです。
また、管理方法を家族に伝えなかったために建物の劣化が進行し、通常より早く資産価値が低下することもあります。さらに、不動産の適切な整理方法を知らない場合、節税の機会を逃す可能性もあるでしょう。だからこそ、生前整理において不動産は特に注意が必要と言えます。
不動産を生前整理する4つの方法
不動産の生前整理にはさまざまな方法があり、何が最善かは当事者や残される遺族によって異なります。
不動産の所有権をめぐってトラブルが起きそうであれば、売却して現金で相続した方が良いかもしれませんし、相続税の負担を減らすために生前贈与をした方が良いこともあるでしょう。
そこで、こちらでは不動産の生前整理で代表的な4つの方法を紹介します。
売却
不動産を売却すれば、まとまった現金が手に入るだけでなく、遺産の分配がスムーズにしやすくなります。
また、固定資産税や管理費用などの維持費を節約できる点もメリットです。売却で注意したいのは、建物の価値は年月の経過によって価値が下がることです。そのため、遅かれ早かれ建物を売却するつもりであれば、できる限り早めに売ることが重要です。
同じ売却でも完全に手放す方法と、売却した建物を借りる「リースバック」という方法があります。リースバックとは、持ち家を売却して、その後はリースバックによって賃貸で住み続けるなどの方法です。
このように、生前整理の手段の1つとして、相続前に不動産を売却する人は少なくありません。
生前贈与
生前贈与とは、当人が亡くなる前に不動産を贈与する方法です。被相続人の死後、遺族間で相続トラブルが起きるのを防ぐためにおこなわれることが多いです。
また、資産価値の高い不動産であれば、相続をして相続税を払うより、生前贈与をして贈与税を払う方が節税につながることがあります。そのため、主に節税対策として生前贈与を選ぶ人が多いのです。ただし、生前贈与はメリットばかりではありません。贈与された人には不動産所得税や登録免許税が課せられる他、見立てを誤るとむしろ課税負担が大きくなることもあるため注意が必要です。
なお、生前贈与は仕組みが複雑ですので、おこなう際は贈与に詳しい税理士などの専門家に相談するようにしましょう
土地活用
不動産を手放すだけが生前整理の方法ではありません。
今ある土地や建物を活用することで、収益が発生させるのも選択肢の1つです。
たとえば、古い建物を解体して駐車場や貸し農園にして利用料を得たり、アパートやマンションを建てて賃料を得たりなどです。収益が発生すれば、相続するまでの間、老後の生活資金に充てることもできます。
ただし、どのような土地活用をするにしても、必ず収益が発生する保証はありません。相応の初期投資が必要ですし、思うように収益が発生せず、赤字経営になる可能性もあります。そのため、生前整理の手段として土地活用を選ぶ場合は、不動産業者やハウスメーカーなど、専門業者のアドバイスの下でおこなうのが無難でしょう。
遺言書の作成
手間をかけずに生前整理をする代表的な方法は、遺言書の作成です。
不動産をどのように相続するか、事前に意思を書面に記録することで、相続トラブルを回避しやすくなります。可能であれば、一方的に文面で意思を伝えるのではなく、家族間で一緒に遺言の内容を決めてもいいでしょう。
なお、遺言書を作成する場合は「公正証書遺言書」を採用することをオススメします(※1)。そちらであれば、証人を立てられる上に公的効力もあります。
不動産を生前整理するメリット
不動産を生前整理することには複数のメリットがあります。
具体的には節税の機会を逃さずに済んだり、資産価値の低下を防げたり、不要なトラブルの回避できたりなどです。そこで、こちらでは不動産を生前整理するメリットを3つ紹介します。
相続トラブルの防止
1つ目のメリットは、遺族間での相続トラブルのリスクを軽減できる点です。
「遺言書があればトラブルは起きる心配はないのでは?」と思う人がいるかもしれません。しかし、たとえ遺言書があっても、不動産の遺産配分に納得がいかず、トラブルに発展するケースは少なくありません。
その点、生前整理であれば所有者本人の意向を直接遺族に伝えられます。不動産を相続するのではなく、売却した分の資産を配分するなどの選択肢もあるでしょう。このように、生前整理をすれば相続トラブルを防止しやすくなります。
節税効果
2つ目のメリットは節税効果を期待できる点です。不動産を生前贈与すれば、相続税対策になることがあります。
たとえば、
- 暦年贈与によって年間110万円以内の基礎控除を適用
- 小分けにして暦年贈与することで、税率を抑える
- 「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」を適用
などです。このように、節税を目的に生前整理をするのであれば、さまざまな手段が考えられます。
不動産の劣化を防ぐ
不動産は放置し続けると建物が劣化し、資産価値が徐々に下がります。
また、激しく劣化した建物を修復するにはコストがかかるため、常に適切な管理やメンテナンスが求められます。その点、きちんと生前整理をしておけば、次の所有者が適切に管理をするので、価値の下落を軽減することが可能です。
不動産を生前整理するデメリット
不動産を生前整理するデメリットの中でも特に注意したいのは、節税対策が裏目に出る可能性です。出費を減らすためのおこないが、逆に出費を増やす可能性があるのです。そこで、こちらでは不動産を生前整理するデメリットを3つ紹介します。
出費が増える可能性がある
相続税対策のために不動産の生前贈与をして、逆に税金や費用の支払いが増えることがあります。たとえば以下のような場合です。
- 不動産取得税や登録免許税が高い
- 不動産の維持費が高い
- 将来的に値下がりする可能性が高い
- 取得費加算の特例を受けられない(※2)
- 複数の人に分けて贈与する場合は費用がかさむ
- 贈与税は相続税より税率が高い
- 小規模宅地等の特例が適用されない(※3)
このように、生前贈与をすることでむしろ出費が増える要因は複数あります。そのため、相続税対策として不動産の生前贈与をおこなう場合は、一度相続税対策に詳しい税理士に相談した方が無難でしょう。
賃貸にすると空室リスクを抱える
生前整理の選択肢の1つに「賃貸」があります。土地や建物を第三者に貸し出すことで、賃料を得る方法です。
しかし、賃貸業は空室リスクを伴うことを忘れてはなりません。
不動産のローン支払いが残っている場合、空室の際は赤字になる可能性があります。空室にならないためには、集客に力を入れたり、入居者へのケアを強化したり、リノベーションをしたりなど、さまざまな工夫が求められるでしょう。
売れ残る可能性がある
生前整理の解決策として、不動産を売却する人は少なくありません。
固定資産税や管理費用が不要になりますし、まとまった現金が手に入ることは大きなメリットでしょう。
しかし、必ずしも不動産がスムーズに売れるとは限りません。需要がなくて数年単位で売れ残っている不動産は実際に存在します。場合によっては更地にしないと売れないこともあり、更地にする際は別途解体費用や整地費用などがかかるので注意が必要です。売却を視野に入れているのなら、買い手がつきそうな不動産かどうかを早めに調べておくと良いでしょう。
生前整理で不動産を扱う場合の注意点
生前整理で不動産を扱うのは、決して容易ではありません。適切な手段を選んだ上で、スムーズに処理をおこなうには、法的な知識や不動産の相場観も重要です。
不動産事情に疎い方が1人で取り組むのは、中々ハードルが高いでしょう。そこで、こちらでは生前整理で不動産を扱う場合の注意点を4つ紹介します。
関連する法律への理解を深める
生前整理で不動産を扱う上で、関連する法律を理解することは重要です。たとえば、遺言書の作成は法律に則って適切に作成・管理しなければ、法的拘束力を持ちません。
また、生前贈与と相続とで課税率はどの程度違うのか、手続きはどう違うのかなど、税制に関する知識も重要です。関連する法律をすべて完璧に把握する必要はありませんが、どのような法律が関わってくるかくらいは押さえておくといいでしょう。
市場価値を正確に把握する
所有する不動産を売るのか売らないのか、売らないのであれば活用するのかしないのか、これらを適切に判断するためには、不動産の市場価値を正確に把握することが肝要です。
市場価値を把握せずに処分の仕方を決めると、誤った選択をする可能性があるからです。
たとえば、
- 買取の需要がないのに無理に売却しようとして、長期間売れ残ってしまったり
- 需要がないエリアなのにアパートを建てて、無駄に借金が増えてしまったり
- 生前に売った方が良かったのに、そのまま相続してしまったり
さまざまなケースが考えられます。このような事態を防ぐためには、不動産業者や鑑定士に依頼するなどして、適切な査定をしてもらい、市場価値を把握しましょう。
専門家を頼る
不動産を処分する際は、法的な手続きを要することがほとんどです。
しかし、不動産関連の法律に疎い方が、それらを自力でおこなうことはハードルが高いと言えます。
そのため、不要な失敗を避けるためにも、生前整理で不動産を扱う場合は専門家の力を借りるようにしましょう。司法書士や税理士、弁護士などにアドバイスをもらい、手続きのサポートをしてもらうことをオススメします。
不動産相続はトラブルが起きやすい
不動産に限らずですが、一般的に相続ではトラブルが起きやすいと言えます。
東京スター銀行の調査によれば、2000年時点で相続関連のトラブルが8,889件だったのに対し、2020年には11,303件に増えています(※4)。
また、総務省の統計によれば、相続の対象となる資産の7割は不動産です(※5)。不動産は現金のように均等に分割することが難しく、遺族者同士でよくトラブルになります。売るにしても、不動産の評価が適正かどうかを判断できる人はそう多くないでしょう。
また、遺族の中に遺言書の内容に納得がいかない人がいて、トラブルに発展するケースもあります。
たとえば、被相続人の配偶者や子どもよりも直系尊属(父母・祖父母など)の方が遺産の割合が多いなどです。このように、不動産相続はトラブルが起きやすいので、それを念頭に置いて取り組む必要があります。
不動産の生前整理に関してよくある質問
最後に、不動産の生前整理に関してよくある質問に回答します。特に揉め事が起きやすい「評価額」と「分割相続」について紹介するので、参考にしてください。
不動産の評価額はどうやって決まるの?
正確な評価額を知りたいのであれば、不動産鑑定士に依頼するのがオススメです。
不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価に関する法に基づいて作られた国家資格ですので、安心して評価を任せられます。
多少の費用はかかりますが、評価額をめぐって遺族間で不要なトラブルを起こさないためには、客観的かつ専門的な立場から評価してもらうのが良いでしょう。
不動産の分割相続にはどのようなやり方がある?
不動産の分割相続には主に以下の3つの方法があります。
- 現物分割:個別の不動産ごとに相続人を決めること
- 代償分割:相続する遺産が不動産しかない場合、不動産を相続した人が、
他の相続人に代償金を払うことで公平性を保つこと
- 評価分割:不動産を売却して、得た利益を分配すること
分割せずに共有名義で不動産を相続することもできますが、不動産の共有名義はトラブルが起きやすいと言われています。そのため、可能な限り上記の分割方法の中から、相続人同士が納得できるような方法を選ぶことが賢明です。
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繰り返しになりますが、不動産の生前整理をするなら、専門家の指導の下で適切な手段を選ぶことが肝要です。また、不動産は他の遺産と比べて金額が高く、遺族間でトラブルが起きやすいことも念頭に置いておくといいでしょう。
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