一般的に土地や家屋、その他事業活動で使用する備品などは、固定資産税の対象となりますが、工場や倉庫の場合はどうでしょうか?
現在進行形で利用しているわけではなく、ただ工場や倉庫を所有しているだけでも、固定資産税は発生してしまうのでしょうか?
今回はそのような疑問に答えるために、工場や倉庫の固定資産税について詳しく解説していきます。
使っていない工場・倉庫!固定資産税はかかる?
まず、工場や倉庫を所有していれば、使用の有無にかかわらず固定資産税が発生します。具体的に固定資産税の内容はどのようなものなのか、みていきましょう。
所有しているだけで土地や建物には固定資産税がかかる
土地や工場、倉庫は所有しているだけで固定資産税の対象となります。
年に1回、1月1日に市町村から(東京都の23区は都から)納税通知書が送られてくるので、それを4回に分けて納付するのが通例です。まとめて払いたいときは、1年分を一度に納税することもできます。
また、工場や倉庫の固定資産税が、他の居住用の建物と異なる可能性があるのは、「負担調整措置」を受けられる点です。
負担調整措置とは、税負担の公平性を保つために、負担水準の不均衡を緩和しようとする措置になります。
税負担が多い土地に関しては、ある程度負担を下げる、あるいはそれ以上あげずに現状維持します。逆に、税負担が少ない土地では負担を上げることで調整しているのです。
ちなみに、厳密に言うと、固定資産税には2つの分類があります。
土地や家屋を対象とするのが「固定資産税」であり、工場・倉庫の中にある機材や器具などを対象とするのが「償却資産税」と呼ばれているのです。
ただ「償却資産税」はあくまで実務上の分類であり、通称です。そのため、償却資産税も込みで「固定資産税」と表現されることもあります。
償却資産税に関する詳細は、次項で見ていきましょう。
事業用であれば償却資産税も発生する
償却資産とは、法人や個人が店舗や工場・倉庫を運営している時、土地や家屋、自動車を除いた「事業用に使われるもの」を指します。
ここでいう「事業用」とは、工場の屋内にある機械や器具などの、事業の利益に直結するもののみが該当するわけではありません。
例えば、門や塀、煙突や鉄塔、駐車場、アスファルト塗装、運搬用の車両(自動車税がかかるものは対象外)なども償却資産の対象となるのです。
ちなみに、これらの償却資産が課税されるには、「償却資産の評価額の合計が150万円以上のとき」という条件があります。
評価額とは、償却資産の価値を表す数値で、実際に税金の金額を計算されるときに使われます。初年度の評価額は、取得に要した費用のおよそ8割〜9割が相場です。
必ずしも、所有しているだけで税金が発生するわけではないので注意してください。
※参考「固定資産税(償却資産)」(東京都主税局)https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/shisan/shokyak_sis.html
固定資産税の計算方法
固定資産税の概要をお伝えしたところで、続いては固定資産税の計算方法を解説します。
固定資産税は各自治体の税務課の調査によって金額が決められるため、自分で計算する機会は多くないですが、土地活用をするのであれば知っておいて損はないでしょう。
まず、基本となる計算式がこちらです。
固定資産税 = 固定資産評価額 × 税率(1.4%)
固定資産評価額とは、税金の金額を決める際に基準となる数値で、正確には土地の評価額と家屋の評価額の2種類からなります。
ここからはより詳しく解説するため、固定資産税の納税額が算出されるまでの過程を、
- 土地の評価額を確認する
- 家屋の評価額を確認する
- 計算式に当てはめる
の3段階に分けて説明していきます。
土地の評価額を確認する
土地の評価額は、一般的に「路線価方式」という評価方法によって決められます。
路線価とは、各道路に面した土地の1m²当たりの価格のことで、国税庁によって毎年7月頃に発表されるものです。特定の土地の路線価を知りたければ、国税庁のホームページを確認すると良いでしょう。
国税庁HP「路線価図・評価倍率表」:https://www.rosenka.nta.go.jp/
なお、路線価は3年おきで更新されているため、土地周辺の環境の変化次第では大幅に変動することもあります。
家屋の評価額を確認する
次に、家屋の評価額の確認方法をみていきましょう。
家屋には居住用の建物や商業施設の他、工場・倉庫も含まれます。土地と違って、家屋の評価額は国税庁のホームページを閲覧すれば確認できるというものではありません。
家屋によって建物の構造や特徴は様々なので、各役所の固定資産税担当職員による「家屋調査」が必要なのです。
具体的には、3年おきに調査の日程調整をするための通知書が届くので、それに従って調査をしてもらいます。
調査時に必要なものに関しては各自治体によって異なるため、事前に担当役所の税務課に確認してみてください。
計算式に当てはめる
「土地の評価額」と「家屋の評価額」がわかれば、あとは以下の式に当てはめて計算するだけです。
固定資産税 =固定資産評価額(土地の評価額+家屋の評価額) × 税率(1.4%)
税率は一般的に1.4%であることが通常ですが、自治体の財政状況によってはそれより高いケースもあります。
なお、現時点での固定資産評価額を知りたい場合は、各自治体で作成している「固定資産課税台帳」を確認しましょう。
固定資産税の納税通知書とともに自治体から送付される「課税明細書」が手元にあれば、そちらで直近の評価額を確認することも可能です。
また、各自治体に「公課証明」を請求することで確認することもできます。
土地の評価額を知りたければ「土地公課証明書」を、家屋の評価額を知りたければ「家屋公課証明書」を、償却資産の評価額を知りたい場合は「償却資産公課証明書」を、担当区役所の窓口で発行することが可能です。
工場・倉庫の固定資産税を軽減することはできる?
毎年納税しなければいけない固定資産税ですが、できることなら納税額を減らしたいと考える人もいるでしょう。
そこでこちらでは、工場・倉庫の固定資産税を軽減する方法について解説します。
固定資産税の軽減制度を利用する
まず工場・倉庫の固定資産税において、非課税を実現させる手段はありません。
納税自体は避けられないですが、代わりに納税額を軽減させる手段として、「特例」と「減免」の2つがあります。
ただし、特例や減免を実現させるには、特定の条件を満たしている必要があるのです。それぞれ紹介します。
・特例
地方税法において、以下の対象資産を有している場合、認定資料を提出することで特例の措置を受けられます。
地方税法 | 対象資産 | 認定資料 |
第349条の3第5項 | 内航船舶 | 船舶国籍証書、船舶検査証書等 |
第349条の3第26項 | 外国貿易のための外航船舶 による物品運送用コンテナ |
コンテナの申請証明書、確認書等 |
附則第15条 第2項第1~5号 |
公害防止設備 | 設置届出書、事業許可書等 |
参考:「国土交通税制改正概要」(国土交通省)https://www.mlit.go.jp/page/content/001377449.pdf
・減免
同じく地方税法において、災害などにより損害を受けた固定資産は、罹災(りさい)証明書を提出することで減免措置がなされます。
地方税法 | 対象資産 | 認定資料 |
第134条 第1項第3号 |
災害等により滅失・損害を受けた固定資産 | 罹災証明書等 |
参考:「地方税法等の一部を改正する法律」(総務省)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/pdf/h21_08_1.pdf
臨時の軽減措置を受ける
前項で紹介した「特例」の中には、臨時でおこなわれる軽減措置もあります。
たとえば、昨今新型コロナウイルス感染症が急速に拡大したことで、多くの企業が経営不振に陥りました。
そのため中小企業庁は、事業収入が一定以上減った中小事業者や個人に対して、固定資産税や都市計画税の軽減措置を受けられるようにしたのです。
具体的には、2020年2月~10月の期間の中で、連続する3ヶ月間(任意)の事業収入の対前年同期比減少率が、50%以上であれば「全額減免」、30%以上50%未満であれば「2分の1を減免」とする制度でした。
償却資産を含む固定資産税のほか、都市計画税も対象となっています。これらは申請期間内に申請書を提出することで、減免が適用されます。
このように、社会全体が一定以上の緊急事態におかれているときは、臨時で軽減措置が実行されることがあるので、覚えておきましょう。
固定資産税を軽減したいなら土地活用を
現在、工場や倉庫を所有している人の中には、工場・倉庫以外の方法で土地活用を検討している人もいるでしょう。
そこで、こちらでは工場・倉庫以外の土地活用によって、固定資産税の軽減は可能なのか、4つの方法別に解説していきます。
駐車場
駐車場経営は、地上に家屋を建てるわけではなく、さほど初期費用もかからないことから、土地活用の選択肢としては一見魅力的に思えます。
しかし、その経営自体は容易ではありません。
まず、賃貸住宅と違って駐車場は更地とみなされるため、固定資産税を含む税制上の優遇措置がない可能性も考えられます。
その上、固定資産税が高い地域では十分な利益を見込めず、経営そのものが立ち行かない場合もあります。
とくに郊外では、駐車場代が比較的安い傾向にあり、固定資産税の支払いさえ困難なケースもあるのです。
つまり、駐車場経営は固定資産税の軽減以前に、そもそも事業で利益を出して税金を支払うことすらハードルが高いと言えるでしょう。
賃貸併用住宅
続いて紹介するのは「賃貸併用住宅」です。
賃貸併用住宅とは、オーナー自身が住む部分と、賃貸で貸し出す部分を両方有している住宅のことを言います。
賃貸併用住宅は「小規模住宅地」とみなす特例措置があり、固定資産税だけでなく相続税の節税も期待できるのです。
具体的には、一戸につき200㎡までを限度として、課税標準額が1/6に減額され、200㎡以上の範囲に関しては1/3に減額されます。
例えば、オーナーの自宅以外に3戸を貸し出す場合、200㎡×4戸=800㎡までなら、課税標準額が1/6に減額されるというわけです。
このように、賃貸併用住宅は固定資産税の節税対策としては有効ですが、通常の住居か賃貸用住居かという区別が曖昧なため、収益物件としては売却しにくい傾向があります。
ロードサイド
ロードサイドに位置する土地は、立地さえ良ければ一定の交通量が確保されており、土地面積も広いため事業用の土地活用には向いています。
商業施設を建てて、店舗経営が成功すれば、大きな事業収益を安定して得られる可能性があるでしょう。
テナントを誘致できれば、建物の建設費用も負担しなくて済むこともあるので、ある程度初期費用を抑えた状態で土地活用をスタートできます。
店舗の運営も基本的に企業に一任できるため、自身で細かな事業計画を立てる必要もなく、
非常に手離れがいい活用方法と言えるでしょう。
しかし、賃貸住宅のように固定資産税の軽減措置はないため、節税対策としてはおすすめできません。
テナントとの契約は10年、20年と長期的な契約になりますし、万が一テナントが撤退すれば収益は一瞬で途絶えてしまいます。
リターンが大きい分、リスクも同じくらい大きい活用方法ですので、単に節税目的ではじめるには適していないと言えます。土地活用のリスクを回避する方法については、「土地活用のビジネスモデルを紹介!おすすめの活用方法は?」をご参照ください。
保育園
最後に紹介するのが「保育園の経営」です。
実はここまで紹介したどの活用方法より、税金の優遇措置や助成金制度に恵まれているのが保育園経営になります。
国に優遇される理由としては、保育事業自体が、児童福祉法が掲げる理念の実現に貢献しやすいためです。
ただし、そういった優遇措置や支援制度の恩恵は、保育事業をしていれば一律で受けられるわけではありません。
国からの認可を受けた「地域型保育事業」と、認可を受けていない「企業主導型保育事業」とによって程度が異なります。
細かな規定は自治体によって異なりますが、例えば大阪では、保育事業の固定資産税軽減について以下のように定められています。
事業種 | 地域型保育事業 | 企業主導型保育 | ||
小規模保育事業 | 家庭的保育事業 | 居宅訪問型保育事業 | ||
利用定員 | 6人以上19人以下 | 5人以下 | 制限なし | 6人以上 |
軽減割合 | 非課税 | 3分の1 | 3分の1 | 3分の1 |
軽減期間 | 無期限 | 無期限 | 無期限 | 5年度分 |
対象資産 | 土地、家屋、償却資産 | 家屋、償却資産 | 家屋、償却資産 | 土地、家屋、償却資産 |
上記のように、たとえ認可が下りていない企業主導型保育事業であっても、認可事業並みの待遇を受けることが可能です。将来的に認可がおりれば、固定資産税は無期限で非課税となります。
また、企業主導型保育事業は固定資産税の軽減措置のほかにも、複数の助成金制度を活用できるのがメリットです。主に以下の2つがあります。
・整備費助成金
建物の創設工事や増改築費用の4分の3が、基本助成金として認められています。
施設の規模によって助成金単価には上限があり、最低でも7580万円、最大で1億6470万円とされています(一部の都市では異なります)。
参考:「新規募集申請書類」(公益財団法人 児童育成協会)https://www.kigyounaihoiku.jp/download/r2_bosyu2_01
・運営費助成金
運営費助成金とは、月々の運営状況に基づいて交付額が決まる助成金です。
地域や定員、年齢や保育士の比率、開所している日数や曜日、時間など、さまざまな項目をもとに助成金の金額が決まります。
要するに、開所日数や利用者が多いほど経費が増えるため助成金も増え、逆に経費が少なければ助成金も減るというものです。
以上のように、土地活用において保育園経営は、固定資産税の軽減のみならず、事業として大きなメリットがあります。
しかし、それはもはや節税対策の域を超えていると言えますので、本気で保育事業に取り組みたいという気構えがない限り、安易にはじめるのは避けましょう。
今回紹介した活用事例のほかにも、土地活用の事例は多くあります。興味のある方は「土地活用のおすすめは?人気の土地活用ベスト13をご紹介」をご参照ください。
土地活用なら近畿住宅流通へ
工場や倉庫に限らず、土地活用には幅広い知識が必要とされます。
中でも、固定資産税を含む税制度に関する知識は不可欠と言ってもいいでしょう。
また、本記事で紹介したもの以外にも土地活用の方法は複数ありますが、立地や特徴、周辺地域の状況によって向き不向きがあります。
つまり、税制面などの予備知識だけでなく、土地の特性を生かしたリサーチ力やマーケティング力も求められるのです。
それらを十分に理解した上で、事業計画を立て、収支のシミュレーションをし、持続可能な事業を構築するのは決して容易ではありません。
そのため、自分自身で慣れない土地活用に挑戦するよりも、いっそ土地を売却した資金で別の事業を始めたほうが都合がいいこともあります。
いずれにせよ、いま土地を持て余していて土地活用についてお困りでしたら、その道に詳しい専門家を頼ることをオススメします。
もし本記事を読んで弊社に興味を持たれたならば、どうぞお気軽に近畿住宅流通までお問い合わせください。